先進の建築技術が支える中大規模木造建築6つのポイント

1.構造計画

中大規模木造建築は、様々な要素が基本設計やコスト、建築期間に影響するため、建築関連企業や専門家が密接に関わり、検討と協議を重ねる必要があります。

構造計画の要素

  • 防耐火性能
  • 建築規模
  • 用途
  • 使用材料
  • 柱スパン(床組、屋根)
  • 架構
  • 構造計算ルート

木造住宅技術の有効活用

住宅より規模が大きくても、木造で建てられる建築物は数多くあります。過去の木造に対する規制やコスト高のイメージから木造では建てられないという先入観があり、鉄骨造や鉄筋コンクリート造が選択されることもありました。低層で3,000㎡までの建築物であれば、現在の木造住宅技術が活用しやすく、木造化しやすい建築物です。

構造計算

住宅と同様の耐力壁を用いた在来軸組工法で建てられる中大規模木造建築であれば、木造3階建て住宅の許容応力度計算を行っている構造設計事務所で対応できる場合もありますが、大空間を有した計画や特殊な屋根架構、門型フレームなどのフレーム構造を採用する場合は木質構造に精通した構造設計事務所への相談が必要になります。

建物規模の守備範囲

建物には構造種別ごとに得意分野があります。中大規模木造建築では、小規模なS造建築の範囲を合理的に設計できる可能性があります。

建物規模の守備範囲

2.防耐火計画

2000年の建築基準法の性能規定化により、木造による耐火建築物が可能となり、延べ床面積が3,000㎡を超える建築物や4階建ての建築物を木造で建てられるようになりました。敷地条件や設計条件から、耐火建築物または準耐火建築物にする必要があるか確認します。延べ床面積を1000㎡以下に区画して「その他木造」にしたり、準耐火建築物で燃えしろ設計を行えば、木を現しで使うこともできます。また、2018年改正基準法(2019年6月25日施行)では、木造建築物等に対する基準の見直しがあり、高さ16m超または4階建て以上の建物でも木を現しで使えたり、耐火建築物にしなくてよいなど、(高さ16m以下かつ3階建て以下、延焼防止上有効な空き地の確保が必要)木造建築物の範囲が拡大されました。

用途地域別の建築制限

(1)防火地域

延べ床面積 100㎡以下 100㎡超
3階以上 耐火建築物
(耐火建築物と同等以上の延焼防止性能を有する建築物)
2階 準耐火建築物
(準耐火建築物と同等以上の延焼防止性能を有する建築物)
1階

(2)準防火地域

延べ床面積 500㎡以下 500㎡超~1500㎡以下 1500㎡超
4階以上 耐火建築物
(耐火建築物と同等以上の延焼防止性能を有する建築物)
3階 準耐火建築物
(準耐火建築物と同等以上の延焼防止性能を有する建築物)
2階 防火構造の建築物
(同等以上の延焼防止性能を有する建築物)
1階

防火区画・防火壁

延べ床面積が1,000㎡超の建築物については、1,000㎡以内ごとに防火壁等によって区画しなければなりません。区画する方法としては以下のものがあります。

  1. 防火壁を設けて区画する
  2. 1,000㎡以内ごとに分棟する
  3. 鉄筋コンクリート造の階段室等を設け、防火壁の代わりとする
  4. 耐火建築物または準耐火建築物とする(火災時のための防火シャッター等は必要)
  5. 防火上有効な構造の防火床による区画も可能(2018年改正による)

3.架構

軸組みの組み方はさまざまあり、建物用途によって選択します。できる限り木造住宅の技術を使用することで設計の負担を軽減でき、一般流通材を使ったトラスを活用すればコストも削減できます。

水平力を負担する壁

架構
壁系構造(軸組構造)

住宅でも使用する筋かいや面材の耐力壁を使用すれば仕様ごとに壁の強さが明確になっているため設計しやすいのが特徴です。

BXカネシン接合金物:在来軸組工法用金物

プレセッターSU ベースセッター 丸鋼ホールダウン

架構
軸系構造(フレーム構造)

フレーム構造は、間口が狭く短辺方向に耐力壁を配置できないときに有効です。長辺方向は面材などの耐力壁で水平力をカバーします。

BXカネシン接合金物

プレセッター門型フレーム

スパンを飛ばす

架構
屋根梁をトラスにする

三角形を組み合わせて骨組みを構成することで強くし、接合部はボルトやピンなどで接合。体育館やドームなどの大空間構造に使用されます。

架構
床梁を大断面集成材にする

1本の梁で大きな荷重を受ける場合、梁の断面を大きくすることで対応。梁せいや長さによって調達が難しい場合は、事前に調整が必要となります。

BXカネシン接合金物

TS金物

4.木材

木造建築で使用する軸材料の木材には、「構造用製材」「構造用集成材」「構造用LVL」などがあります。一般流通材を使用することで、コストを抑えた建築が可能となりますが、公共性の高い建築物などでは地球環境や地域経済の配慮から地域材の使用が条件に入っていることもあります。木材の伐採時期は9月~2月の場合が多く、地域材指定があり特殊材を使用する設計にしてしまうと、工期が遅れる原因にもなり特に注意が必要です。

一般流通材の活用

中大規模木造建築では、一般流通材をいかに活用するかでコストに大きく影響します。住宅で頻繁に使用される木材を常時在庫することで短期間での建築を可能とし、流通量も多いことから特注品の木材と比べて低価格で入手することができます。製材の場合4m以下、集成材の場合6m以下が目安です。

一般流通材の例

木材の種類 樹種 等級 乾燥※1 長さ(m) 断面(mm) 備考
製材 機械等級E70/無等級 SD20 3m/4m 90×90/105・120×105~240※2 九州エリアE50以上
ひのき 機械等級E90/無等級 SD15 3m/4m 90×90/105×105/120×120※2 120×120は6mもあり
米松 機械等級E90・E110 SD20 3m/4m/5m/6m 90×90/105・120×105~390
集成材 オウシュウアカマツ集成材 対称異等級E105 3m/4m/5m/6m 105・120×105~450※2
異樹種構造用集成材(米松・杉) 対称異等級E120 3m/4m/5m/6m 105・120×105~450※2
米松集成材 対称異等級E120・E135 3m/4m/5m/6m 105・120×105~450※2
ホワイトウッド集成材(スプルース) 同一等級E95 3m/4m/6m 105×105/120×120
赤松集成材(オウシュウアカマツ) 同一等級E95 3m/4m/6m 105×105/120×120
杉集成材 同一等級E65 3m/4m/6m 105×105/120×120

中大規模木造設計セミナーテキスト(発行:一般社団法人中大規模木造プレカット技術協会)P.23表4特注材リストをもとに作成

※1 SD20(SD15):含水率20%(15%)以下の仕上げ済み人工乾燥材
※2 120mm以上は30mm刻み

特注材の例

木材の種類 樹種 等級 乾燥※3 長さ(m) 断面(mm) 備考
製材 ひのき 無等級 AD 3m/4m/6m 180~300×180~300※4 背割有
ひのき 無等級 SD20 3m/4m 105・120×105~240※4
LVL LVL(単板積層材) 160E特級65V-55H ~12m 105・120×105~240※4 ダフリカ
集成材 米松集成材 対称異等級E150 ~12m 150~x480~※4
杉集成材 対称異等級E65 3m/4m/5m/6m 105・120×105~450※4
唐松集成材 対称異等級E95 3m/4m/5m/6m 105・120×10~450※4

中大規模木造設計セミナーテキスト(発行:一般社団法人中大規模木造プレカット技術協会)P.23表4特注材リストをもとに作成

※3 AD:天然乾燥材(エアドライ材) SD20:含水率20%以下の仕上げ済み人工乾燥材
※4 120mm以上は30mm刻み

プレカット加工機による木材加工

木材の加工は、できるだけ住宅用プレカット加工機を使用することで、コストを抑えつつ短納期の対応が可能です。住宅用プレカット加工機の最大加工可能範囲を超えると特殊加工機や手加工が必要となり、コストが高くなります。

一般的な住宅用プレカット加工機の加工可能範囲

部材名 長さ(mm) 幅(mm) 高さ(mm)
柱・束 200~6,000 90~150 90~150
横架材 250~6,000 90~120 90~450
羽柄材 300~6,000 27~240 12~150
合板 1,820~3,030 600~1,220 6~36

中大規模木造設計セミナーテキスト(発行:一般社団法人中大規模木造プレカット技術協会)P.24一般的な住宅用プレカット加工機の加工可能範囲をもとに作成

5.接合金物

軸組みの設計がほぼ確定したら、接合部を検討します。住宅用金物をできる限り使用することで納期が短くコストの削減にもつながります。

接合金物の選択と設計

木造の継手と仕口の接合は、建築基準法施行令第47条と建告第1460号で規定されており、住宅用金物を使用すれば効率的です。住宅用金物で対応できない場合は、日本建築学会「木質構造設計規準・同解説」に準じて接合部ごとに設計するか、あらかじめ計算により耐力が算出してある「TS金物(BXカネシン製)」などを使用します。

住宅用金物
(実験済み金物)
実験を行い耐力数値が明確になっています。引張耐力60kNの「高耐力フレックスホールダウン60」や、2本1組で引張耐力120kNの「丸鋼ホールダウン」など、高耐力な製品もあります。
TS金物
中・大断面用梁受け金物です。日本建築学会「木質構造設計規準・同解説」に準じて耐力を計算し、製品寸法と耐力をマニュアルにまとめていますので、製作金物を使用するよりも手間や労力が軽減でき便利です。
製作金物
住宅用金物もTS金物も使用できない場合は、接合部ごとに設計する必要があります。「木質構造設計規準・同解説」をしっかりと理解し、繊維異方性や木材の破壊モード、溶接などに注意して設計します。
耐久性

長期荷重に対する耐久性も検討しておく必要があります。「プレセッターSU」は中大規模木造建築で使いやすいように、日本建築学会「木質構造設計規準・同解説」にのっとりクリープ試験を実施し、長期荷重を受けても影響のない範囲であることを確認しています。

アンカーボルトの芯ズレに注意

特注品の柱脚金物と基礎を緊結する場合、アンカーボルト用の穴が小さいとアンカーボルトの芯ズレにより取り付けられない場合があります。柱脚金物のアンカーボルト用の穴は大きめにあけておき、親子フィラーを使用すると便利です。

6.省エネ

2015年7月「建築物省エネ法※」が成立し、2017年4月1日から大規模(2,000㎡以上)の非住宅建築物に対する適合義務や中規模(300㎡以上)の建築物に対する届出義務等の規制措置が施行されました。

建築物省エネ法

規模 用途 建築物省エネ法による措置
大規模建築物
(2,000㎡以上)
非住宅 適合義務
【建築確認手続きに連動】
住宅 届出義務
【基準に適合せず、必要と認める場合、指示・命令等】
中規模建築物
(300㎡以上2,000㎡未満)
非住宅 届出義務※1
【基準に適合せず、必要と認める場合、指示・命令等】
住宅
小規模建築物
(300㎡未満)
住宅 住宅事業建築主※1
(トップランナー) ※2の努力義務
【必要と認める場合、勧告・命令等】

※1 2019年5月17日公布の改正建築物省エネ法では、300㎡以上2,000㎡未満の建築物も適合義務化が決定しました。また、300㎡未満の建築物についても設計者から建築主への説明が義務化されます。(改正建築物省エネ法は2年以内に施行)
※2 年間150戸以上の住宅を新築する事業者

届出の提出:届出で適用される基準

届出の対象となる場合、建築主は工事着手の21日前までに、建設地の所管行政庁に届出を行う必要があります。

工事種別 用途等 適用される基準
外皮 一次エネルギー
消費量
新築 住宅部分 単位住戸
共用部分 ×
非住宅部分 ×