高耐力な柱脚金物を設計する際に配慮したい内容について、「MP柱脚システム」の2個使いを例に紹介いたします。

1)アンカーボルト降伏のほうが良い?壊れ方への配慮とは?

例えば鉄骨造の露出柱脚の場合、構造計算ルート3の建物であればアンカーボルト降伏でないと構造特性係数Dsを0.05程度割り増して設計したりします。
これは終局時に地震力を+15%程度割り増して検討することを意味します。
地震力でみるとそこまでは影響はなさそうです。

ただ、例えば終局時に想定外の地震力が柱脚に入った場合、次の様な懸念があります。

  1. ドリフトピンの曲げ降伏だけではエネルギー吸収しにくい(柱の損傷を伴いやすい)
  2. 3層以上の柱脚で高軸力が入るような建物では、地震時に木柱脚部が損傷して鉛直荷重が支持できなくなるケースも考えられる。柱の脆性的な壊れ方は望ましくない。
  3. 構造用合板等による耐力壁では施工時に釘頭部が合板にめり込み過ぎていると、終局時の性能は実質的には落ちてしまう。

そこでアンカーボルトを先行降伏させ木材側や基礎の損傷を抑えることで、
終局時においても安定した性能を見込むことができます。構造設計のフェールセーフとして、アンカー降伏としたほうが堅実なやり方と言えそうです。

アンカーボルト耐力

尚、アンカーボルト降伏の場合、鋼構造接合部設計指針(日本建築学会)に記載のあるように、アンカーボルトネジ部が軸部に先行して壊れないように、軸部での降伏が確認されている『構造用両ねじアンカーボルトセットABR』のご利用を推奨します。

2)アンカーボルト降伏だと2次応力として曲げモーメントが入りにくい

平角柱は曲げモーメントによる付加軸力に注意が必要です。
木造だとラーメン構造でない限り、接合部の回転剛性は加味せずにピンとして設計する事がほとんどだと思います。
しかし、金物を2個使いした際には柱断面が大きいため、層間変位に伴い生じる柱の曲げモーメントの影響が大きくなる場合があります。

アンカーボルト降伏で設計する場合、脚部が塑性化し伸びるため、終局時に柱の片側が浮き上がることで柱脚に一定以上の曲げモーメントが生じにくくなる効果もあります。

ここでは、『木造耐力壁構造の柱脚接合部の保証設計法に関する研究(その2)』を参考に、曲げモーメントと終局強度比の影響を合わせて、どの程度の検定比で設計したらよいのかについて検討してみます。
計算式は論文記載の通りのため、掲載を省略します。

検討条件は以下とします。



  1. Ds=0.4の高耐力壁の柱脚に使う場合を想定します。
    終局強度比による許容耐力の低減は0.65。
  2. 設計用引張力はアンカーボルト2個の耐力を足し合わせた230kN(M24)に対して、下記の検討に示す検定比換算の値に近似した値をかけた数値
    (230×検定比換算=設計用引張力)とします。
    入力値に応じて検定比が変わるため、複数回数値を変動させ、外側のアンカーボルトに生じる引張力が230/2=115kNになるときの検定比を採用します。
    終局時の設計用引張力は簡単に上記を1.3倍したときの軸力とします。
  3. 終局時に柱脚金物に浮き上がりが生じて曲げモーメントの影響が小さくなるよう、アンカーボルト降伏となるように設定します。(前述の論文の判定式より検討)
  4. 柱脚金物のスリットプレート以外の剛性が不明確なため、スリットプレートとドリフトピンの剛性、ボックス部分の剛性を合わせて、引張試験時の剛性=約50kN/mm程度になるように、ボックス部分の剛性を調整します。
    引張剛性は別途アンカーボルトの剛性を加味します。
  5. アンカーボルトは20d(d=アンカーボルト呼び径)の埋め込み長さと想定します。



アンカーボルトの検定比



上記の検討より、Ds=0.4の耐力壁の使用で、柱せいが360mm以下程度、つまりノーマル配列と一部のライン配列であれば、終局時には5%程度の耐力低下のため、終局強度比のみ考慮して検定比0.6程度で設計していれば問題なさそうです。

ただ以下の状況では、許容時の曲げモーメントの影響が大きいため、必要に応じて曲げモーメントの影響を考慮して耐力低減する必要がありそうです。



  1. 記載以上の柱せいの場合(柱せいが大きいライン配置の場合等)
  2. 壁倍率7倍以下、制振ブレース、鉄筋ブレース耐力壁等のDsが0.3程度の場合
  3. 地震時ではなく、風圧時の耐力壁のせん断耐力で決まっている場合

ちなみに上記の①で、柱せい390~450mmの時、許容時の曲げモーメントの影響が大きく、許容時の検定比(0.5前後の検定比)で耐力が決定されます。

上記を適宜状況に応じて考慮して設計するのは煩雑に思われるため、鉄骨の露出柱脚などと同様に許容時の設計応力割り増しとして2.0倍を掛けて、設計したほうが簡易で煩雑さがなくてよいかもしれません。

3)終わりに

以上、高耐力な柱脚金物を設計する場合に配慮したい内容について取り上げてみました。

上記の設計方法の場合、耐力がかなり小さめに出てしまうため、MP柱脚システムで推奨している最大径のM24アンカーボルト(ABR490)より大きな径にしたいところです。

ただM27(ABR490)の場合、最大耐力についてアンカーボルト耐力とドリフトピン側の耐力を比較すると、アンカーボルトのF値のばらつきが大きめの降伏点側では445~325N/m㎡で
あることを加味して考えると、

アンカーボルト最大耐力 : 205kN×445/325=281kN
ドリフトピン側最大耐力 : 138kN×1.5=207kN(H-BC8-150(J1)について)
(BXカネシン社内試験結果より、1体評価ではPmax=293kN)

となり、ばらつきの考え方によってはアンカーボルト降伏とならない可能性があるため、注意が必要です。また、専用座金はM24までの対応のため、別途変更が必要です。

今回ご紹介したような注意事項を知った上で、各案件の状況に合わせどこまで考慮すべきか悩んで頂ければと思います。

計算方法引用:
『木造耐力壁構造の柱脚接合部の保証設計法に関する研究(その2):接合部の分類に応じた浮き上がり判定式の提案』(日本建築学会構造系論文集 中 太郎,小谷竜城他4名)