中大規模木造建築を建てるには
木材利用促進法の施行を背景に、公共・民間を問わず中大規模木造建築の需要は高まっています。一般流通材や著しい進歩を見せる既製の接合金物、プレカット会社の加工能力といった住宅生産インフラの活用を基本とし、部分的に大断面集成材や特注金物を使用することで「設計の自由度」と「コスト」の両立が可能になります。
-
一般流通材+住宅用接合金物日本の住宅の多くは木造建築であり、規格化された木材や金物は容易に入手することができます。
-
組み合わせ可能
-
大断面集成材+特注金物流通量の少ないサイズの木材や金物は、受注生産になることも多く、納期に時間がかかります。
自由度の高い計画とコストコントロール
中大規模木造建築では、使用する材料と設備のコスト感覚を身に付けておくことで、オーバーコストにならず実現可能な設計を行うことができます。構造躯体にかかるコストは、材料費、加工費、金物費があります。住宅で使用される一般流通材、住宅用自動機ライン、住宅用接合金物で設計すれば、コストを抑えることはできますが、設計の自由度が制限されることがあります。その場合は部分的に特注集成材、特殊加工機、特注金物を使用し、両者をバランスよく活用することで、設計の自由度とコストコントロールの両立が可能になります。
※下記のコスト比較は実際のコストと比率が変わる場合があります。あくまでも参考値としてご理解ください。
構造躯体費=材料費+加工費+金物費
材料費の比較
サイズによって異なりますが、特注集成材は一般流通材の約2.5~3倍程度コストがかかります。
加工費の比較
一般流通材の加工は住宅用自動機ラインを使用し、1棟約4時間程度で加工できるのに対し、特注集成材の加工は特殊加工機を使用する必要があり、1本約30分から2時間程度の時間を要します。
金物費の比較
住宅用接合金物は大量に生産するため、数百円から数千円程度ですみますが、特注金物は1点物のため価格が高くなります。
大断面集成材 + 特注金物
高度な構造設計と大断面集成材で建てる中大規模木造建築
- ポイント1
- 体育館やホールなど大空間が必要な建物には、梁成の大きな大断面集成材で対応することがある。
- ポイント2
- 住宅用の木材で対応できない場合は、特注品の木材を使用する。
- ポイント3
- 特注の木材は、住宅用の自動機ラインに通らないことがある。その場合は、特殊加工機を使うか、手加工になる。
- ポイント4
- 住宅用接合金物で対応できない場合は、「木質構造設計規準・同解説」に則り、接合部ごとに金物を設計する。
大空間を必要とする体育館やホールのようにスパンが大きい建物でも大断面集成材を利用して建てることができます。しかしながら大断面集成材は受注生産品であるため、調達に時間がかかります。地域材の指定がある場合は調達が困難になることもあり、注意が必要です。部材のサイズが大きくなると加工に特殊加工機を要したり、場合によっては手加工となるため、部材コストだけではなく加工コストも考慮したうえで、事前に木材流通業者やプレカット会社等と打合せをしておく必要があります。接合部の金物は住宅用接合金物では耐力が不足することもあり、その場合は構造設計者が接合部ごとにひとつひとつ金物を設計します。近年では「TS金物」のような大断面集成材に適した金物が開発されたり、専用CAD開発が進むなど、適材適所な金物が選定しやすくなり、効率的な設計が可能になっています。
一般流通材 + 住宅用接合金物
木造住宅技術と一般流通材で建てる中大規模木造建築
- ポイント1
- 間仕切り壁が多い高齢者施設や保育園、クリニックなどは比較的取り組みやすく、物件の数も多い。
- ポイント2
- 木造住宅で使用される木材は105幅か120幅が多く、流通量も多い。そのため、コストも抑えられる。
- ポイント3
- 一般流通材であればプレカット会社の自動機ラインで加工可能。スピーディな加工ができるため、コストが抑えられる。
- ポイント4
- 住宅用接合金物はコンパクトで実験により耐力数値が明確になっている。量産品のため、コストが抑えられる。
高齢者施設や保育園などは間仕切り壁が多く、耐力壁を確保しやすいことから、木造住宅の技術をそのまま使って建てることができます。住宅で使用される木材は105幅や120幅が多く、大断面の木材を使用しなくても住宅用の一般流通材を活用することでコストを抑制できます。一般流通材は安定的に生産され調達しやすく、木材加工も高性能なプレカットにより、高品質の材料がスピーディに手に入ります。また、住宅で使用される接合金物は第三者機関による耐力確認試験が実施済みであり設計で使用する数値データが揃っているものが多く、比較的簡単に設計することができます。金物の大きさも非常にコンパクトで軽量であり、作業者の負担も軽減できます。確立された住宅建築の仕組みをフル活用することで、鉄骨造や鉄筋コンクリート造と比べて大幅なコスト削減も可能です。