木造では耐力壁の加算則が成り立つよう、柱頭柱脚接合部は壁より先行して破壊しないことが前提となっています。
そのため耐力壁の性能を確認する面内せん断試験でも接合部が先行破壊しない条件で実施します。
しかし設計においては、地震力に対して接合部の許容応力度計算を行うだけでは、終局耐力を担保できていない場合もあるため、注意する必要があります。
つまり許容応力度計算でも、接合部の終局状態をある程度考慮して設計することが望ましいです。
今回はその方法をご紹介します。
1)終局状態を考慮した短期許容応力度の評価
本コラム作成時(2022年5月)には書籍化前の講習会テキストですが、以下の資料に終局時の接合部性能を考慮した接合部設計方法が紹介されています。
講習会テキスト 木造軸組工法 中大規模木造建築物の構造設計の手引き(許容応力度設計編)
(公益財団法人 日本住宅・木材技術センター) 第Ⅰ部-193より
終局状態を考慮した接合部の短期許容 sPa = sPo × α ×Cu
終局状態を考慮するための短期許容耐力の低減係数 : Cu = Cj/Cw
耐力壁の終局強度比 : Cw = Pu-w/sPa-w
接合部の終局強度比 : Cj = Pu-j/sPa-j
sPo :短期基準耐力
α :設計者の工学的判断による低減係数
Pu-w :耐力壁の終局耐力
sPa-w:耐力壁の短期許容断耐力
Pu-j :接合部の終局耐力
sPa-j :接合部の短期許容断耐力
『 終局強度比=終局耐力と短期許容耐力の比率 』
接合部の終局強度比が耐力壁の終局強度比より小さい場合、その比率に応じて接合部耐力を低減する。
これにより、終局状態を考慮した許容応力度計算ができると言う事です。
基本的にこの検討は、耐力壁・接合部とも実験データなどから許容耐力も終局耐力も分かっている必要がありますが、以下の様にDsを利用する方法が便利です。
許容応力度計算時の地震力 : 0.2(=Co) ×Z×Rt×Ai×ΣWi
大地震時の地震力 : 1.0(=Co)×Ds×1.0(=Fes)×Z×Rt×Ai×ΣWi
上記のように建物にかかる地震力を考えると終局強度比は下線部関係にあると言えます。
つまり壁単体でみれば、以下のように考えることができます。
耐力壁の終局強度比 Cw ≒ 構造特性係数Ds / 0.2
例えば、90角筋交い耐力壁の終局強度比は、構造特性係数Ds=0.6※1なので、
許容応力度計算時のCo=0.2より、壁の配置バランスが良ければ、許容応力度計算時の
0.6/0.2=3.0倍
の水平力が終局時の耐力壁に生じます。これに対して接合部の終局強度比を以下の表を参照すると、偏心座付ボルトでは”1.6″となるので、
1.6/3.0=0.53
よって許容応力度計算では接合部引張耐力を0.53倍に低減して検定する事になります。
なお、壁倍率2.5倍の大壁面材耐力壁はDs=0.3※1のため、同様に算出すると耐力壁の終局強度比はCw=0.3/0.2=1.5、Cu=1.6/1.5>1となるので、接合部の耐力低減は不要になります。
このように、脆性破壊する耐力壁の接合部設計には注意が必要です。
※1:講習会テキスト 第Ⅰ部 180 表2.5.7-1参照
2)木造以外ではどうしているのか。
ちなみに、木造以外の構造種別ではどうしているのかというと・・・。
例えば、鉄骨の露出柱脚では終局耐力を担保するために、大地震時と中小地震時のベースシア係数の比を元に、許容応力度計算時の設計用せん断力の割増係数として2倍が乗じられています。
(建築物の構造関係技術基準解説書(通称黄色本)を参照。)
木造でも同じような考え方を導入しようとしているようです。
3)終わりに
製作金物の場合には木質規準などを基に算出した計算耐力と実験耐力の比が1.5~2.0倍程度あることが多いため、計算耐力を採用すれば終局耐力についてはそれほど気にする必要はないかもしれません。
Dsが高い耐力壁を使い、壁量に余裕がない木造建物を設計する場合などでは、実験耐力の既製品金物を使うとき前述のような配慮が必要です。
終局時の保証設計は上記以外にも、木造以外での考えとして、保有耐力接合といった考え方や、筋交い系の制作金物では変形量が大きくなった時に生じる2次応力にも配慮する必要があります。
(これらはまた別のコラムで紹介するかもしれません)
MP木造建築の接合部設計では、住宅木造の構造計算では考慮する必要のなかった検討が必要になります。
お悩みの際には、構造金物相談所までお問合せください。