vol.09 木造で2方向跳ね出し梁を設計する場合について

木造で2方向の跳ね出し梁を検討する際のポイントを設計例と共にご紹介します。

❶木造での跳ね出し床

一般的に木造では梁端部固定の片持ち梁を作れないため、跳ね出し梁により床を構成します。
非住宅木造建築では避難経路等、2方向の跳ね出しができると便利ですが、
跳ね出し梁により構成すると納まりが煩雑なので、どちらか1方向の床は柱を立てて支持すると思われます。

そこで、ここでは1方向は木梁による跳ね出し梁、もう一方向は上階・小屋梁を伸ばし、2階の床を吊ることで構成する場合を例に2方向跳ね出し梁について検討してみます。(最上階の庇は垂木で跳ねだす計画とします。)

❷2方向跳ね出しの設計例

設計方針は下記とします。
・外部の避難経路などを想定し、2方向跳ね出し梁の検討をします。
・建物規模2階建ての事務所を想定し、1階建ての床の2方向跳ね出し1.5m(通路幅1.2m+手すり等の幅を想定)の場合について納まり例・解析例を明示します。

・出隅部は2階床跳ね出し梁の先端からの跳ね出し梁として支持する。
・木梁はE120-F330(比重6.0kN/㎥)で120×450×6mの一般流通材以下の断面とする。
・断面欠損として断面二次モーメントは0.8がけとする。
・2階床の片持ち梁はプレセッターSU片持ち梁金物を設け、たわみ防止とする。
・屋根が掛かるため、軒先は仕上げで被覆するとして使用環境Ⅱとする。
・手計算するとかえって複雑になるため、立体解析により部分的に検討する。
・長期の弾性たわみはクリープ係数2.0を考慮して1/600rad以下とする。
・跳ね出し長さの2倍以上、梁の根元を伸ばした跳ね出し梁として、接合部に常時逆せん断力が生じないよう考慮する。
・垂木のモデル化は省略し、荷重のみ考慮する。
・屋根の重量はDL:0.8kN/㎡、2階床はDL:1.5kN/㎡/LLe:0.8kN/㎡、手すりは0.2kN/mとする。

検討モデル図

以下に立体解析結果の弾性たわみを示します。

軒先の断面も120×450と大きめですが、なんとか成立しそうです。

たわみ(DL+LLe):1.7mm(=2.2-0.5)<2.5mm(=1500/600) ∴OK

尚、梁勝ちにしているため、場合によっては柱のめり込み防止金物の設計が必要です。
接合部納まりは以下の想定とします。(参考図DLについてはお問い合わせください。)

おさまりの参考図

❸跳ね出し梁の曲げ剛性が不足する場合

3階建ての場合や荷重条件が厳しい場合、屋根の跳ね出し梁に鉄骨梁を併用する方法も考えられます。
鉄骨梁を用いても、長期荷重だけの負担であれば、大きな建物規模でなければ、併用構造として設計ルート1で構造設計可能な場合があります。

H鋼が力学的には合理的ですが、木造では木梁を溝形鋼で挟み込める溝形鋼が納まり上合理的です。
ただ、外壁面では梁幅が大きいので、納まりの工夫が必要です。

溝形鋼と木梁の接合にはMPシアプレートを推奨します。
鉄骨梁のレーザーカットに対応していない鉄工所もあるので、MPシアプレートで接合すれば木梁へのせん断伝達効率が上げることができ、穴あけ箇所数を減らせるためです。

❹最後に

上記は防耐火・防水などの仕上げや手摺まで明記していないため、別途検討が必要です。
例えば、吊り材については耐火被覆が必要な場合が考えられますので、注意が必要です。

避難経路に関係した話として、避難階段や部分的な外部鉄骨階段等では階段踊り場の受梁を柱の中間部に設ける必要があります。
そのような場合、片持ち梁ではたわみが心配なため、踊り場の梁を受ける柱も鉄骨にて構成するのが堅実です。

今回紹介したように、木造で2方向跳ね出しや片持ち梁を求めると煩雑になりがちです。

可能であれば基礎まで柱を立てて設計した方が簡単だと思います。

どうしても設計しなければならない場合には、上記を参考に適切に判断して設計頂ければと思います。


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