vol.13 一般流通材で8、9P(7.28、8.19m)角スパンの2階床を構成する方法について

一般流通材で6m越えスパンの2階床を構成する方法について考察してみます。

❶はじめに

MP木造建築を設計する場合、構造計画的に無理をせず一般流通材の6m材を梁に用いて、必要な位置に柱を立てて設計するのが経済的です。

ただその場合、鉄骨造のように7,8mグリッドの室内空間を構成できず、6mスパンを並べた長方形の室内空間になります。

そこで、金物工法でしかできない計画として一般流通材で8,9P(7.28,8.19m)角スパンの2階床を構成する方法について検討してみます。

❷検討方針

今回はレシプロカル構造を利用した架構について検討します。レシプロカル構造とは互いに支え合って力が釣り合う様な構造です。木造では「卍おさまり」なんて呼ばれることもあります。木造の在来仕口では梁の勝ち負けが施工順に影響するため、卍は梁伏せ図を描くときに注意が必要なおさまりですが、金物工法を利用する場合は大変ですが施工は可能です。

設計条件は以下の通りです。

・手計算では煩雑なため、1構面を取り出して解析モデルで検討します。

・梁接合部には逆せん断力が入るので梁端部にはプレセッターSUを用います。

簡易にピン接合でモデル化します。

・梁せいは120mmx450mmのオウシュウアカマツ集成材E120-F330を使用します。

・6mスパンを超えているため、通称、中大規模グレー案を参考に固有値解析により8Hz以上となるようにします。

設計荷重は固定荷重1.3kN/㎡、積載荷重は0.8kN/㎡(事務所の地震力用積載荷重)とします。固有振動数の検討時には固定荷重のみ考慮します。

・梁組は根太方向への1方向版として床荷重を入力します。

・固有周期の検討においては、梁の断面欠損を考慮しないで検討します。

・スパン中央のたわみを確認するため、中央のみ根太をモデル化します。

8,9P(7.28,8.19m)角スパンの2階床組の構成

❸検討結果

検討した結果、8P角で12Hz、9P角で8Hzの固有振動数となりました。

前者は多少余力があるので、梁の構造性能をもう少し小さくできそうです。

後者は8Hzと余裕がないので、梁の応力も厳しいです。

そのため、小梁を掛ける向きを調整したり断面欠損を抑えたり、梁接合部を引きボルトにして固定度を確保したり、梁をベイマツ集成材E135-F375としたり等の配慮が必要です。少し無理のある計画です。

上階に個室がある場合を想定すると、前者の8P角の計画が現実的と思われます。

大きな床倍率が必要な場合、構造用合板のロの字釘打ちだと軸組が細かくなりすぎるため、下図のように梁下端にブレースシートを配置する方法もありえます。

梁下端へのMPブレースシートの配置例

 特注の大断面集成材を1本配置して小梁を掛けるのに比べて材積は増えますが、特注の場合には流通材の3倍程度のコストになると考えると、コストを抑えられそうです。

❹終わりに

今回提案した架構では先行ピンを打って上から落とし込む施工はできないこと、全てを組まないと架構が安定しないこと等、施工方法に注意が必要です。設計時には適切に指示いただければと思います。

また、手計算により検討したい場合、『中大規模木造建築物の構造設計の手引き』に検討例が明示されているため、参考にご検討ください。

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