住宅だと主にガレージが必要なプランで有効活用できるベースセッター(ベースセッター耐力壁)ですが、MP木造建築においても以下のような使い方ができます。
- 大きな開口部を有する構面でも耐力を確保する
- 屋内の開放性を維持しつつ耐力壁線間距離を短くする(下写真)
今回はベースセッターを使用する際のメリットや工夫、注意点をお伝えしていきます。
❶引きボルトラーメンと比べたメリット
一般的な引きボルトラーメンの場合、モーメント抵抗接合としての計算、脚部の納め方の検討などの設計手間がかかります。一度設計してしまえば、次物件でも使用できますが、はじめの一歩に大きな手間がかかります。
また柱脚については既製品ではないため、アンカーずれが生じないような設計だけではなく施工上の配慮も必要です。
引きボルトラーメンの場合、ボルトはABR490等、鉄骨造で一般に使われている流通品があります。
ただし、それを受ける座金(金物)はボルト径によっては適宜製作しないといけません。特注のために納期は数週間以上必要であり、特に小さな物件では配慮が必要です。
ベースセッターは既製品ですので、引きボルトラーメンで設計する際の懸念に対して、
- 適宜接合部の設計が不要
- 在庫品・既製品なので納期への配慮が不要
となっており、安心して利用することができます。
ただし、引きボルトラーメンの柱脚についても、高耐力柱脚金物45の2個使いの納まりとするなど工夫すれば既製品にて設計が可能です。
❷ベースセッターで設計する場合の工夫
ベースセッターの注意点として、「上階に耐力壁がある場合、トラス両端に配置されている場合」等では大きな軸力が生じることで、負担できる水平耐力が小さくなりがちです。
そのため、軸力がかからないように、
- 耐力壁のある通り(軸組)からずらしてベースセッターを配置し、上階の軸力は別の柱で受ける
- 上記と同様の考え方で、同じ通りに配置したままで別途柱を立てて、軸力を負担させる
などの工夫をすることで軸力による水平耐力の低下を抑えることができます。
同じ通りに配置したままで別途柱を立てた場合
なお、2022年の4月から上階の軸力影響を引張の低減係数と圧縮の低減係数を別けて設定することが可能になったので、以前よりも圧縮が多くかかる箇所でも使いやすくなりました。
詳しくはベースセッターマニュアル(第4版)ご参照ください。
❸ベースセッターの基礎立ち上がり部分の設計について
基本的には設計・施工マニュアル通りに設計すれば問題ないのですが、マニュアルに記載のない注意点として、基礎部分の設計があります。
基礎についてはベースセッターを使用する設計者が適切に設計することとしていますが、参考例としてスターラップ筋仕様(地中梁部)とフープ筋仕様(立ち上がり部)をマニュアル内に示しています。
フープ筋仕様については木造建築物を主に設計している方にとってはあまり馴染みが無いかもしれませんが、鋼構造接合部設計指針等の文献に記載の露出柱脚に関する設計方法が参考になるかと思います。
下図はフープ筋仕様について多少安全を見て設計した場合の参考例です。設計荷重や立ち上がり側面の設計かぶり読み方で結果が多少前後します。
❹最後に
ベースセッター耐力壁は壁量計算をする際の壁倍率をもたない耐力壁であるため構造計算が必須となりますが、使い方によって設計の自由度を上げるアイテムです。
適材適所で有効な方法をご検討ください。
ベースセッターに限らず、MP木造建築の接合部設計に関してお困りの点がありましたら、構造金物相談所までご連絡ください。