第二回「もくコミュ」は建築設計の初期段階で話される、意匠と構造の対話について取り上げます。
今回は、意匠設計者の方に、意匠設計の役割から構造設計者と対話する際に気を付けていることまでを語ってもらいました。

・どんな意匠設計者
普段はRC造やS造を中心に住宅以外の建築を意匠設計しているのですが、最近は事業主に木造提案してみることが増えてきました。
実際に設計する前までは、正直言って木造は住宅までかな?なんて思っていましたが、今では、自分のコンセプトを形態で表現できて、コストメリットも提案できるのであれば検討してみたいと思うようになりました。
・まとめ役になる意匠設計者
はじめに、意匠設計者の役割について簡単に説明します。
一般的に建築の計画初期段階から事業者の要望や期待に応えるため、建築全体の基本要件を整理し、設計の出発点を整えます。
そして、設計委託業務の元請けとして、構造・設備・機械などの専門設計者をまとめ、設計図書を統合する役割も担います。
その後、設計通り施工されるかを設計監理して施工業者との意思の伝達を行います。 図面上で計画設計したものが、建築として立ち上がってくるあたりが苦労と緊張感もあり充実した時期となります。
図面上で計画設計したものが、建築として立ち上がってくるあたりが苦労と緊張感もあり充実した時期となります。

木造提案する際に重要なステップは、施主に木造建築の魅力を伝えることですね。用途の特徴から必要な動線の確保と、発展性のある空間をコストに合わせて提案しなければなりません。特に昨今は資材や建設費の高騰、環境意識からの脱炭素への配慮など木質素材・木造建築が提案で有効なケースが増えてきました。
普段、鉄骨造で自由なスパンや開口に慣れていると、構造計画の段階で木造の制約に戸惑うことがあります。

そんなときは、平面や断面を簡潔にまとめ、構造設計者に構造のコーディネートを依頼します。施工や加工工程まで意識した情報を共有することで、設計監理段階でのトラブルも未然に防げるのです。
構造設計者との対話は、基本設計の前段階にある「意匠計画」の重要なプロセスだと考えています。ユニークな形態や木造らしさを表現したい時などは特に初期段階から「構造計画」を意識することが大切です。
・構造設計との対話で有益な情報を引き出す意匠設計者
木造住宅の設計では、特に合理的な施工も求められるため、整形で標準化された方法がとられます。構造設計としても標準化された構造方針と検討方法があるそうです。「木造軸組工法住宅の許容応力度計算」(グレー本と呼んでいるマニュアル)が良く使われているようです。
一方で非住宅の用途になる木造建築では、高さ、広さなど住宅の形態とは異なるサイズになりますし、あえて見せ所としての形態や空間も設計します。
意匠設計の段階で、図面だけでは伝わらない機能や優先要件がある場合、それらを丁寧に共有し、構造設計者が適切な架構形式や構・工法を提案してもらえるようにします。
住宅設計の延長で構成できるものと、そうでない計画がありますからね。

特殊な平面形状、たとえば凹凸型、L字型、雁行、△形状などがあるケース。また、立面形状においても、ピロティ形式やスキップフロア、立面の不整形など、構造安全性に影響する要素を踏まえ、早期に構造設計者と共有します。
例えば、東京都の構造規定による審査上の特殊な形態を紹介した図などを参照します。


これらの形状は構造設計者からすると、いずれも風の当たり方や地震で揺れる方向性などが複雑になるため、複数のケースで検討が必要になる事があるそうです。
特に曲面などがある形状では、さらに難易度が上がるようです。
また、階高を大きく取る非住宅用途では、建物の一部に1層と2層が混在したりする場合があります。断面図などで空間構造のイメージを構造計画の段階で、構造設計者に確認してよかったと感じたケースも多いです。

例えば、階の高さを部分的に高くする構成で、作業と執務スペースを組み合わせると、下図のように部分的に層の数が1層のAと、2層のBが出来上がります。

この形態は、一つの建物の中で、揺れ方が異なる二つの部分を有している計画になります。A部分は階高の高い1層の揺れ方、Bの部分は2層として揺れ方をします。
「屋根部でAとBがつながっているモデルでイメージするのか?」、「AとBは離れていて別々に考えるのか?」など構造設計者と計画していきます。

建物内部の空間で回遊性や変化をつけるスキップフロアや立面不整形、外観はシンプルで内部は多様な空間構成にしたい場合は、特に構造設計者の計画が重要となります。
確認申請での構造審査は、建築基準法という言葉での説明と承認作業となります。構造設計者が構造的な妥当性だけでなく、法適合につなげて説明できることが大事です。
木造建築では標準化されたもの以外を組み込むと、性能を検証し説明する資料を作るための時間や費用は掛かるものです。計画段階で確認すれば各工程のスケジュールにも影響する情報を聞くこともできます。
意匠計画の初期段階において、構造設計者が適切な検証手法や法的適合を判断できるよう、私自身も法制度や構造概念を理解しながら対話に臨むことが重要だと感じています。
・まとめ
意匠計画の初期段階から構造設計者による構造計画との対話を勧めます。特徴ある形態やコンセプトの場合は、木質材料を合理的・特徴的に活用するために有益なガイド情報を受けるパートナーとなるからです。
この対話は、基本設計や実施設計だけでなく、生産設計や設計監理にまで大きな影響を及ぼします。特に、建物形態に特徴がある場合には柔軟で創造的なやり取りが欠かせません。

今回は、建築計画段階の意匠設計と構造設計の対話をテーマに語っていただきました。
次回、もくコミュは建材メーカーと設計者の対話がテーマになる予定です。
「他にも、○○目線の対話が聞きたい」なんて言うリクエストもお待ちします。問い合わせよりご意見ください。
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