構造設計者と構造審査担当者との意思伝達は、設計図書です。
互いの役割と木造設計に対するかかわり方は異なりますが、より良い木造建築を目指す界隈のメンバーです。
どんな視点で構造審査をしているのかを、少しだけ対話を通してご覧ください。

登場人物
林田(はやしだ)氏:構造設計者。木造3階建ての住宅などを中心に設計を行っている。
申請している物件の質疑回答を一通り終えた後に、少し会話を続けているところ。
新見(にいみ)氏:審査機関の検査員。構造関連の審査担当として質疑書を作成して申請者への対応をするスタッフ
質疑回答の確認ありがとうございました。
今回に限らず、木造3階の申請の時はいつもお世話になり、大変助かっております。
そういえば、新見さん、法改正後の審査が大変込み合っていると聞きました。
こちらこそお世話になります。林田さんも建方さんも、図面をしっかり合わせて作成してくださっているのがよくわかります。
ところで、審査機関の方に直接聞く機会もあまりないですが、新見さんは木造の審査では、どのようなところを特に注目していらっしゃるのですか?
そうですね。まずは整合性ですよね。意匠図と構造図、構造図同士の整合性、そして構造図と計算書の整合性ですね。
構造図をデフォルトの状態から修正しながら作成される方は、前の仕様が残っているケースも多いんですよ。計算書表紙の建築主名義も残っていたことも有りますよ。
なるほど、凡例や仕様書と各図面の記載内容が不整合したり、軸組図なんかは伏せ図の修正後に、後から整合させるのを忘れたりしますね。
知らないうちに意匠設計者が、階高を変更していたケースは、私も困ったことがあります。
あとは、設計方針を明記していただくケースもありますね。
案件にもよりますが、構図計算書は数百ページから数千ページになります。
紙での印刷にしてもPDFにしても、かなりの量ですよね。
どのような構成で作成された計算書なのかを示すのが目次ですし、概ねの流れと役割を設計方針で示してもらいます。
言ってみれば、設計や計算方針とはシナリオのようなものなんです。これなしに本編を読むのは設計者との誤解も生じかねません。
なるほど、確かにそういうことありますね。1つの建物でも構造上は分割して検討するケースで、私も大量の計算書を提出したことがあります。1棟でほぼ3棟分の計算書を以前だしました。
そうですよね。ほかにも斜めの通りに設置する耐力壁の検討などでは、プログラムによっては応力の伝達に不足が生じたりするため、追加検討が必要なものもあります。
設計者の工夫が検証作業で反映されるのが、構造計算ですしモデル化の技術ですよね。
この辺りを設計方針で書いていただかないと、審査側も設計者の意図を法適合の観点から判断できないため、多くを質問しないといけないことになります。
設計方針ね。いつも同じケースでデフォルトしちゃうこともありますからね。
法律的な根拠も複雑で難しくなってきましたね。
建築行政情報センター(ICBA)から出版されている、“建築構造審査・検査要領”2026年度版という書籍があります。表紙にスカイツリーが描かれている本です。
構造関連の法令に対して、審査の観点から開設されているので役に立つと思いますよ。
へー、そんな書籍があるんですか。黄色本並に厚いですね。3.11構造種別ごとの構造計算書の審査あたりは、勉強になりそうですね。

それでも、すべての審査項目がリストになっているわけではないので、計算書に書かれた設計者の方針に沿って、関係する部分を読み進めていくことになりますね。
例えば、2025年の法改正で、壁量検討の除外を行う構造計算については、告示第1100号第6があります。
この条文には、許容応力度計算を告示第1899号によって計算するようにとあり、その中身を見ると、偏心率の条件と設計外力についても記載されています。
ということは、木造の構造計算の設計フローは、告示1899の内容を基本とすることになります。
なるほど、告示1899は施行令46条の2項で使うものかと思いましたが、改正後は木造計算なら真っ先に関係する法令になるのですね。チェックしておきます。
ところで新見さん。木造の計算で使っているプログラムはいくつかありますが、基礎については様々なモデルがありますよね。複雑なものから簡易的なものまで使われているようですが、審査上は問題はないんですか。
そうですね。いわゆるグレー本“木造軸組工法住宅の許容応力度設計”に準拠したと評価されたものもあれば、そうでないものもありますね。
確認審査は法適合ですので、設計法を限定するものではないです。
検証するモデルや方法はいくつかある中で、どのように法適合を判断したかを確認します。荷重設定、応力算出、応力度による検証の枠組みが、許容応力度計算ですよ。
入り口となる荷重・外力と、出口の検定する許容応力度は定まっているが、応力等の算出方法は具体的には法令で規定していない。もちろん参考にできる基規準書や図書はありますけどね。
ですから、設計者の方が、安全性を保った検証で適合性を示していることを説明していただければよい、というのが基本スタンスですね。
なるほどね。今まで確認が下りていたのに・・の前に、設計者の法適合義務が問われるわけですね。
そのために、質疑書を通して審査側と設計者さんとのコミュニケーションをよくしたいと思っています。
質疑書も小さい欄に書き込まれる少ない文字でのやり取りですよね。すごい量になると少し気落ちしますね。
私も同じなんですよ。(笑)

グレー本も2025年度版が出て、内容も少し改定されました。すぐに適用されますか?
グレー本は法令ではないので、いつから施行という厳密なルールはないですね。プログラムメーカーも、対応させるための時間がかかると思います。
設計者の方が、新しいマニュアルのいいところだけを採用して危険側の設計とならないようには注意してほしいですが、審査側が最新版への適用を早期に求めることはないですよ。ソフトの対応や内容へのQ&Aなど、設計に必要となる情報が整う状況によるでしょうね。
なるほど、結構柔軟ですね。すべての審査機関がそうだとは思いませんが。
構造審査の人材不足も深刻だと聞いています。設計や施工を経験されずに審査されている方も多いですよね、法の適合審査は特有のスキルが必要な気がしました。これからもよろしくお願いします。
こちらこそ。設計者さん方の審査依頼があっての機関です。必要な情報交換はしていきましょう。
まとめ
・設計図書は設計者の方針や法適合のためのシナリオのようなもの。審査側にも施主にも読みやすいように組み立てる。
・図面と計算書は、設計の両輪のような存在。不整合がないように注意する。
・設計側も審査側も人です。質疑と回答でわかりやすい言葉のコミュニケーションを心がける。
設計図書に必要な金物に関する資料については、お気軽に構造金物相談所までお問合せください。
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